漫画でわかる とみ鍼灸治療院漫画でわかる とみ鍼灸治療院

ブログ > あの食事会は何だったのか

ブログ

あの食事会は何だったのか

2026-09-10

おはようございます。

とみ鍼灸治療院の松葉です。

 

私は開業する前、病院のリハビリ科で勤務していました。

その病院は結構大きな病院で、内科、整形外科、耳鼻科、そしてリハビリ科と、

幅広く診療しておりました。

 

私はなぜか院長と顔が似ており、患者さんの間でも、

 

「先生、院長に似てるなあ。」

 

と話題になることがありました。

 

院長もそれがまんざらでもなかったのか、

私は結構可愛がってもらっていました。

 

そんなある日、理事長から突然、

「次の土曜日、勤務が終わったら院長と三人で飯を食いに行くから空けといて。」

と言われました。

 

院長と理事長と私。

三人で食事。

 

「これは何かあるぞ。」

 

昇給の話か?

 

いやいや、

そんな話がなくても院長とゆっくり話ができるだけで光栄なこと。

 

私はその日を楽しみにしていました。

 

そして土曜日。

 

仕事を終えた私は、理事長の運転する車に乗り、食事のお店へ向かいました。

着いたのは、地元で有名な戸隠そばのお店。

院長は先に到着していました。

 

私と理事長が席に着くと、

1分も経たないうちに、

蕎麦と親子丼のセットが三人の前に運ばれてきました。

 

「早っ!!」

 

どうやら、すでに注文してくれていたようです。

 

そして次の瞬間。

院長は「いただきます」も言わず、

無言で蕎麦をすすり始めました。

 

ズズズズ……。

 

私も理事長から、

「食べや。」と言われ、食べ始めました。

 

しかし、院長から話しかけてくる様子はありません。

ひたすら蕎麦をすすり、

親子丼を食べています。

(ええ〜!?何もなし?)

 

私はてっきり、「最近、調子はどうや?」

とか、

「頑張ってるな。」

とか、

そんな言葉をかけてもらえると思っていました。

 

ところが、何もありません。

三人で黙々と、蕎麦と親子丼を食べます。

 

もちろん、ベラベラ喋りながら食べるのも行儀が悪いかもしれません。

 

でも、

 

(もしかして、俺から話しかけなあかんかったんか?)

 

そんなことまで考え始めました。

そして、三人とも食べ終わった頃。

ようやく院長が口を開きました。

 

「もうええか?」

 

おそらく、

「おかわりはいらないか?」という意味だったのでしょう。

 

「はい。」

すると院長。

 

「ほな、帰ろか。」

……。

食事会終了です。

(何やったんや、これは。)

 

結局、何の話もありませんでした。

その後、理事長が気を使ってくれたのか、

美味しいパン屋さんへ連れて行ってくれました。

 

それでも私は、

「せめて労いの一言くらいあっても良かったんちゃうかな。」

そんな気持ちを、退職する日までどこかで引きずっていました。

 

あれから12年。

私も47歳になりました。

 

当時の私は、

「自分に従業員や後輩ができても、絶対あんなことはせん。」

と思っていました。

 

でも最近になって、ふと考えることがあります。

もしかしたら、あれはあれで良かったのかもしれない。

 

院長は、私にご飯を食べさせてくれました。

しかも、おかわりしたいと言えば、

たぶんいくらでも食べさせてくれたでしょう。

 

褒めるわけでもない。

仕事の話をするわけでもない。

何かを教えるわけでもない。

 

ただ、三人で蕎麦と親子丼を食べる。

若かった私は、そこに「意味」を求めていました。

 

でも、人との関係というものは、

必ずしも言葉で説明できるものばかりではありません。

 

気を使う相手なら、沈黙が続くと、「何か喋らなければ。」と思います。

実際、家族や昔からの友人と一緒にいる時は、何も喋らなくても平気だったりします。

 

そう考えると、

あの日、院長は私に何かを伝えようとしていたのか。

それとも、本当にただ蕎麦と親子丼を食べたかっただけなのか。

 

今となっては、その真相を確かめる術はありません。

 

ただ一つ言えるのは、12年経った今でも、

あの日の蕎麦と親子丼を、私ははっきり覚えているということです。